渡島半島南西部160km周遊記 — ハンターカブCT125で巡る、風と歴史の軌跡
1. プロローグ:旅立ちの鼓動と上ノ国町の朝

旅の始まりを告げるのは、冷涼な朝の空気を切り裂く、ハンターカブCT125の乾いた排気音だ。出発地点、上ノ国町。サイドスタンドを跳ね上げ、跨った瞬間に伝わるシートの程よい硬さと、大型リアキャリアに括り付けた荷物の重みが「旅のリアリティ」を教えてくれる。
ハンドル中央に鎮座するデジタルメーターに目を落とせば、刻まれた数値は「2938 km」。このまっさらな朝の光を反射する液晶が、160kmの旅路を経てどのような表情に変わるのか。スロットルをわずかに捻れば、単気筒エンジン特有の鼓動が掌に伝わり、私の期待感を静かに、しかし確実に煽り立てる。渡島半島の最南端を目指す冒険が、今ここから始まった。
2. 石崎旧道トンネル:時が止まった石積みの記憶
国道228号を南下し、波飛沫が路面を湿らせる海岸線をゆく。ふと現道から逸れた視線の先に、時代の遺構が口を開けていた。「石崎漁港トンネル」だ。

坑門を見上げれば、無骨な石積みと、後年に補強されたであろうコンクリートが奇妙な調和を見せている。しかし、その入口に置かれた「立入禁止」の赤い看板が、ここがもはや人の住む世界ではないことを峻烈に告げていた。トンネルの奥を覗き込むと、崩落したのか意図的に埋められたのか、巨大な土砂と瓦礫の山が出口を完全に封鎖している。光の差さないその「行き止まり」は、かつてここを往来した人々の営みが、ある日突然断ち切られたような、薄暗い静寂を湛えていた。
傍らに愛車を停めれば、荒々しい日本海が運んできた巨大な流木が、白く乾いた骨のように横たわっている。波の音だけが、閉ざされた暗闇の中に消えていった時間の記憶を、今も語り継いでいるかのようだった。
3. 松前町建石地区:ピザハウスで味わう「カブ主ランチ」の妙

さらに南へ、道は松前町建石地区へと続く。潮風に少しばかり体温を奪われた頃、松前町役場裏で目に飛び込んできたのは「ピザハウス シャトー」の鮮やかな緑の屋根だ。白い外壁に映える、どこか懐かしさを覚えるレトロなフォントの看板。その横で「カツ丼」ののぼりが力強く翻っている。この和洋折衷の自由奔放さこそ、ツーリングという放浪にふさわしい。

ハンターカブを、店の裏手にあるプロパンガスのボンベやエアコンの室外機が並ぶ「生活の匂い」がするスペースに滑り込ませる。そんな場所でも気兼ねなく停められるのが、この相棒の良さだ。ヘルメットを脱ぎ、頑強なリアキャリアに置く。ピザの香りと、どこか地方の食堂を思わせる温かみが混ざり合う店内で、空腹を満たす。名もなき街角の小さな一軒家が、旅人にとっての聖域になる瞬間だ。
(たらこの量が物凄い!!、ベーコンピザをテイクアウト)

4. 松前城下町:歴史の面影を残す石畳の迷宮

松前町の中心部へ踏み入れると、舗装はアスファルトから美しい石畳のインターロッキングへと変わる。ブロックの継ぎ目を踏み越えるたびに、フロントフォークから微細な振動が伝わり、歴史の重層を感じさせる。「温泉旅館矢野」の重厚な佇まいや、街並みに溶け込む「うみ街信用金庫」の黒い屋根。

スピードを落とし、城下町の風情を噛み締めるようにゆっくりと流す。案内標識が示す「松前城」や「松前公園」の文字が、かつての北の要衝としての誇りを今に伝えている。かつて武士たちが闊歩したであろうこの石畳を、令和の鉄馬で往く。スロットルを戻した際に聞こえるエンジンブレーキの音が、歴史の迷宮に心地よく吸い込まれていった。
※ここの歩道と車道はその昔 自分が工事担当者で施工しました。
地面を少し掘削すると「埋蔵文化財」が出てきます。
福山城の瀬戸物(皿や茶碗)欠片や石垣の跡などが多かった。
当時も今も道路の位置はあまり変わっていないようでした。
随時「松前町の学芸員」のみなさんが確認~測量後に工事再開でした。
掘削した残土もふるい分けして確認していたようです。
5. 北海道最南端・白神岬:津軽海峡の風を全身に受けて

そして、ついに北の大地の尽き点、北海道最南端「白神岬」に立った。北緯41度23分51秒、東経140度11分52秒。遮るもののない眼前に広がるのは、白波が牙を剥く津軽海峡の荒海だ。

石碑に刻まれた「海底下の列車のひびき聞こえ来て」という一節が、胸を突く。今、この岬の岩肌を打ちつける波の数マイル下、遥か海底の奥底を、新幹線が轟音を立てて駆け抜けているのだ。その圧倒的な物理の現実を想像すると、愛車を支えるアスファルトさえもが微かに震えているような錯覚に陥る。
海風に煽られながら、最南端の碑と愛車をフレームに収める。吹き荒れる強風に身体を強張らせながらも、自らの足で、自らのエンジンでここまで来たという、ライダーにしか許されない確かな達成感が、全身を駆け抜けた。
※福島町~知内町は強風と小雨でノンストップで木古内町へ・・・
6. 木古内町:鉄路の記憶と道の駅の温もり
岬を回り込み、東海岸を北上して木古内町へ。新幹線が停車する近代的なJR木古内駅のガラス張りの威容と、その向かいにある「道の駅 みそぎの郷 きこない」の木の温もりが、旅の緊張を優しく解いてくれる。

入口では、町の人気者「キーコ」が木製の「POST」サインを手に、剽軽な表情で迎えてくれた。バイク置き場には「バイク置き場」と明記された看板があり、そこにはライダーを歓迎する町の意思が感じられる。自動販売機で飲み物を買い、木製のリールを再利用したようなテーブルに腰を下ろす。カブの向こうに広がる町の景色を眺めながら、これまでの行程を反芻する。こ

うした何気ない休息の時間こそが、長旅の味わいを深くしてくれる。
7. エピローグ:山あいを抜けて、上ノ国への帰還
旅の最終盤は、内陸へ舵を切る。道道5号(江差木古内線)、山あいを縫うワインディングロードだ。海沿いの単調な直進とは異なり、ここはハンターカブの機動力が光る場所だ。遠心クラッチの癖を掴みながら、コーナーの手前でリズミカルにダウンシフト。心地よいトルクを感じながらクリッピングポイントを抜け、立ち上がりで再びスロットルを開ける。タイヤが路面を蹴る感触が、直接脳に届くような感覚。
夕闇が迫る頃、出発地である上ノ国町へと戻った。エンジンを止めると、金属が冷えていく「キン、キン」という微かな音が響く。メーターを確認すれば、数値は「3098 km」。朝に見たあの輝きは、160kmの旅が跳ね上げた道端の砂埃と、白神岬の潮塩で薄く曇っている。しかし、その汚れこそが、今日という一日を全力で駆け抜けた証だ。
渡島半島の豊かな自然、止まった歴史、そして力強い機械の鼓動。すべてを飲み込んだ160kmの軌跡を噛み締めながら、私は心地よい疲労感と共に、愛

車のエンジンを労うようにそのタンクを軽く叩いた。
出発時メーター:2938 km
到着時メーター:3098 km
総走行距離:160 km
ルートマップも作ってくれたが・・・。なんか雑
